犬の混合ワクチンは、複数の病気に対する予防接種を一度に行うためのワクチンです。
これにより、愛犬の健康を守るために重要な病気を効率よく予防することができます。
以下に、当院で取り扱っている犬の混合ワクチンとその対象となる病気について説明します。
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監修者プロフィール:小原 健吾
所属学会:日本小動物歯科研究会、比較歯科学研究会 / 趣味:サーフィン、SUP
当院で扱っている混合ワクチン
初めに、当院で扱っている混合ワクチンをご紹介します。
● 当院で扱っている混合ワクチン
●レプトスピラ症に対応していないワクチン
・3種混合ワクチン(キャニバックKC-3)
3週齢から接種可能で、パピー期のケンネルコフ対策に有効です。
鼻の孔に垂らすタイプです。
トレーニングセンターなど一部の施設を利用する際に必要になることがあります。
・6種混合ワクチン(バンガードプラス 5/CV)
基本的にすべての犬が接種を推奨されるワクチンです。
別の段落で詳しくご紹介いたします。
●レプトスピラ症に対応しているワクチン
・8種混合ワクチン(バンガードプラス 5/CV-L)、10種混合ワクチン(バンガードプラス 5/CV-L4)
6種混合ワクチンにレプトスピラ症用のワクチンを加えたものです。
別の段落で詳しくご紹介いたします。
・レプトスプラ症用4種混合ワクチン(バンガード L4)
レプトスピラ症のみを予防するためのワクチンです。
別の段落で詳しくご紹介いたします。
6種混合ワクチン
このワクチンは、以下の6つのウイルス感染症に対する予防接種を行います。
特に①〜④のワクチンはコアワクチンと呼ばれ、すべての犬が接種すべきワクチンとされています。
● 6種混合ワクチン(バンガードプラス 5/CV)
①犬ジステンパーウイルス感染症
高熱、咳、くしゃみ、嘔吐、下痢、神経症状を引き起こすウイルス性疾患。
死亡率が高い病気で、重篤な神経症状が出た場合は回復後も後遺症が残る場合があります。
②犬パルボウイルス感染症
激しい下痢や嘔吐、重度の脱水症状を引き起こすウイルス性疾患。
急激に衰弱し、脱水症状により短時間で死亡することがあります。
感染力も強く、死亡率が高い病気です。
③犬伝染性肝炎
犬アデノウイルス1型による感染症。
発熱、嘔吐、下痢がみられ、目が白く濁ることもある。
子犬が感染すると、症状が認められず突然死を引き起こすことがある恐ろしい病気です。
④犬伝染性喉頭気管炎
ケンネルコフとも言われ、犬アデノウイルス2型によるいわゆる喉風邪。
咳、発熱、鼻炎症状を引き起こす。
重症化すると肺炎を起こすこともあり、他のウイルスとの混合感染により死亡率が高くなる病気です。
⑤犬パラインフルエンザウイルス感染症
ケンネルコフとも言われる、いわゆる喉風邪。
伝染力が非常に強く、犬伝染性喉頭気管炎と同様の症状を引き起こします。
⑥犬コロナウイルス感染症
成犬の場合は軽度の腸炎で治ることが多いが、犬パルボウイルスとの混合感染では重症化することもあります。
子犬の場合は重度の嘔吐、下痢を引き起こし、脱水に陥りやすくなります。
レプトスピラ症に対応しているワクチン

犬レプトスピラ感染症に対応したワクチンも取り扱っております。
レプトスピラ症とはレプトスピラという細菌による感染症です。
レプトスピラに感染しているネズミなどのげっ歯類などの尿に汚染された水や土壌を介して経口、経皮的に感染します。
犬だけでなく人にも感染し、厚生労働省により4類感染症に指定されており、公衆衛生上でも重要な感染症です。
発症すると発熱、嘔吐、急性肝炎、急性腎障害などを引き起こし、死亡率も高い病気です。
西日本に多い病気ですが、神奈川県でも2011年、2014年、2019年に1件づつ、2021年には逗子海岸でも1件確認されています。
2024年は小坪と金沢区の犬がレプトスピラ症によって亡くなっています。
当院でも今年の春、レプトスピラ症が強く疑われる犬を治療しました。
レプトスピラには多くの血清型(親戚同士のようなもの)が存在し、ワクチンで予防できるものはそのうち発生率の高い4つのタイプです。
● 犬レプトスピラ感染症に予防効果のあるのワクチン
・8種混合ワクチン(バンガードプラス 5/CV-L)
6種混合ワクチンにレプトスピラの2タイプを加えたもの。
・10種混合ワクチン(バンガードプラス 5/CV-L4)
6種混合ワクチンにレプトスピラの4タイプを加えたもの。
・レプトスプラ症用4種混合ワクチン(バンガード L4)
レプトスピラの4タイプのみが入っているもの
レプトスピラ感染症は非常に地域性の高い病気で、当院では8種もしくは10種混合ワクチンをお勧めしています。
また、夏から秋にかけて発生率が高くなるので、夏までに接種することをお勧めいたします。
混合ワクチンの接種スケジュール
ご自宅に愛犬を迎え入れてから、初めて8種もしくは10種混合ワクチンを接種する場合を主に説明いたします。
すでに8種もしくは10種混合ワクチンを接種している場合は、1年に1回のワクチンを継続しましょう。
● 混合ワクチンの接種スケジュール
・4ヶ月齢未満の場合
初回接種:6〜8週齢でブリーダーもしくはショップでレプトスピラ症を含まないワクチンを接種されていることがほとんどです。
追加接種:ご自宅に迎え入れた後、最後のワクチン接種から2~4週間隔で、生後4ヶ月齢を過ぎるまで8種もしくは10種混合ワクチンを接種します。
その間、2回ワクチンを接種する場合が多いです。
1歳齢の時にもう1回接種し、その後は1年に1回接種します。
・4ヶ月齢以上の場合
初回接種から2~4週以内に追加接種を1回行うことで、より強い免疫の獲得が期待できます。
その後は1年に1回、8種もしくは10種混合ワクチンを接種します。
6種混合ワクチンを選択される場合も、おおむね上記のスケジュールで接種します。
注意点
接種後はできるだけ安静にし、1日は様子をよく見てあげてください。
混合ワクチンは愛犬の健康を守るために非常に重要ですが、まれに副反応も認められます。
接種後すぐに表れる副反応もありますが、3~6時間後でも現れるものもあります。
そのため、混合ワクチンの接種は午前中をお勧めいたします。
混合ワクチン接種後は院内で15分ほど安静に過ごしてください。
● ワクチンによる副反応
ワクチンに接種に起因する免疫刺激により、軽い発熱、食欲不振などが見られることがありますが、通常は一過性で1~3日で回復します。
また、以下のようなアレルギー反応が認められた場合は積極的に治療する必要があります。
・全身性アナフィラキシー
症状 :ふらつく、ぐったりする、循環器・呼吸器症状(低血圧、呼吸困難など)
発生率 :7~8頭(混合ワクチン10,000回に対して)
発生時間:ワクチン接種後数分~1時間以内に発生し、特に5分以内が多いとされています。
・皮膚症状
症状 :痒み、蕁麻疹、顔面の腫脹など
発生率 :42~43頭(混合ワクチン10,000回に対して)
発生時間:ワクチン接種後数分~24時間、あるいはそれ以上経過して発症するとの報告もあります。
・消化器症状
症状 :嘔吐、下痢など
発生率 :27~28頭(混合ワクチン10,000回に対して)
発生時間:ワクチン接種後数分~24時間、あるいはそれ以上経過して発症するとの報告もあります。
このような副反応が認められた時はすぐに当院までご連絡ください。
以前にワクチン接種後、体調変化を起こしたりアレルギー反応を起こしたことがある場合は獣医師に申し出てください。
副反応が起こりにくくなる処置があります。
年齢や持病のためにワクチン接種について悩まれている方も、ぜひ一度ご相談ください。