外部寄生虫という言葉は聞いたことがあるでしょうか。
文字通り、動物の皮膚や毛などの体の外に付着する寄生虫のことです。
犬・猫ではノミ、マダニ、ミミダニ、カイセンヒゼンダニ、ニキビダニ、シラミが問題になることが多いです。
今回は特に知っておきたいノミ、マダニについてお話いたします。
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監修者プロフィール:小原 健吾
所属学会:日本小動物歯科研究会、比較歯科学研究会、日本獣医エキゾチック動物学会 / 趣味:サーフィン、SUP
マダニ

マダニは、野山だけでなく、いつものお散歩コースなど身近なところにいて、人や動物に付着する吸血性の寄生虫です。
服や靴などに付着して室内に持ち込まれることもあります。
春から秋にかけて活動が活発になりますが、季節を問わず一年中活動しています。。
犬、猫では耳、マズル、まぶたなどの顔周りや肛門、被毛の薄い腹部などに付着していることが多いです。
マダニが寄生することでウイルスや寄生虫などの感染症をはじめ、様々な健康被害が起こります。
● マダニによる健康被害
・吸血による皮膚炎
一般的に痒みは無いことが多いですが、かまれた部位は赤く腫れたりしこりができたりします。
寄生しているマダニを無理に除去しようとするとマダニの頭部が皮膚に残り、皮膚炎やひどく腫れるなどのトラブルが起こることがあります。
・貧血
1度の吸血1週間ほど動物に付着し続け、マダニの体が100倍以上の大きさになるまで吸血します。
吸血した血液はマダニの体内で濃縮され、残りの水分はマダニの唾液として動物の体に戻されます。
そのため多数のマダニが寄生すると貧血を起こす可能性があります。
・ライム病
ボレリアという種類の細菌による感染症です。
主に北海道や山間部などの冷涼な地域で報告されています。
犬と人に感染する病気で、発熱、食欲不振、歩行異常、神経症状、ケイレン、下痢、結膜炎などを引き起こします。
治療は抗生剤を用います。
・犬バベシア症
赤血球に寄生するバベシア原虫という寄生虫による感染症です。
西日本を中心に感染が認められますが、関東でも流行地域出身の保護犬に散見されることがあります。
発症すると重度な貧血、血小板の減少、発熱などを認めます。
治療には特殊な抗原虫薬や抗生剤が用いられ、複数回の輸血が必要になることもあります。
治療後も体内から完全に駆虫することは困難で、生涯再発を警戒する必要があります。
・アナプラズマ症、ヘモプラズマ症など
犬や猫の血球に寄生するリ病原体による感染症です。
血小板の減少、貧血、発熱、元気食欲低下などを引き起こします。
診断には遺伝子検査、治療には抗生剤を用います。
・SFTS(重症熱性血小板減少症)
SFTSウイルスによる感染症で、犬、猫、人に感染します。
発症すると発熱、倦怠感、黄疸、消化器症状など様々な症状を認めます。
致死率も高く、犬では40%、猫では60%、人では30%と報告されており、毎年事例が報告されています。
九州をはじめ温暖な西日本で流行していた病気でしたが、東日本にも広がってきています。
一昨年、本院の横浜山手犬猫医療センターでSFTSウイルスに感染した猫の治療をした経験があり、関東の市街地では初めての事例でした。
マダニに寄生された場合は、無理に引き抜かず病院で適切に除去してもらうようにしましょう。
上記以外にも様々な病原体がマダニの吸血によって感染します。
発見後きれいに除去できても、2週間ほどは体調変化に気を付けてお過ごしください。
ノミ

ノミは、花壇や少しの繁みにも潜んでいて、人や動物に付着する吸血性の寄生虫です。
服や靴などに付着して室内に持ち込まれ、家具の隙間や絨毯などに隠れて吸血の機会をうかがっています。
繁殖力が強く吸血後24時間で産卵することができ、屋外より室内での繁殖を好みます。
夏から秋にかけて活動が活発になります。
ノミの移動はとても素早く犬や猫で発見してもすぐに逃げられてしまいます。
それではノミが引き起こす健康被害を確認していきましょう。
● ノミによる健康被害
・吸血に伴う痒み
犬、猫、人に共通します。
一般的に蚊よりも強くしつこい痒みです。
1回吸血するとその付近で再度吸血することが多く、狭い範囲で複数の刺し跡が特徴です。
・ノミアレルギー性皮膚炎
犬、猫で認められる、吸血により侵入したノミの唾液によるアレルギー性の皮膚疾患です。
主に背中から尾の付け根にかけて赤いブツブツができたり、広範囲に皮膚がボロボロになることもあり、強いかゆみを伴います。
ノミ1匹が寄生しただけでも発症し、治療には徹底的なノミの駆虫が必要です。
また、重症度によってはステロイド剤や抗生剤も併用する必要もあります。
・瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)
犬、猫で認められる、消化管の中に住み着く寄生虫の1種です。
体内に瓜実条虫の幼虫を保有するノミを、グルーミングなどで誤って飲み込んでしまうことで感染が成立します。
症状は下痢や、子犬子猫が寄生されると発育不良も認められます。
寄生した瓜実条虫が少数ならば無症状のこともあり、症状がわかりにくいこともあります。
便の表面や肛門に白いゴマ粒のような虫の体の一部(片節)で感染に気付くことも多いです。
ノミの寄生が認められたら便検査も同時に実施することをお勧めします。
・貧血
ノミに重度に寄生された場合、貧血を起こしたり衰弱して痩せていくことがあります。
通常の診察では少ないですが、保護したての子猫や沖縄県宮古島市で保護犬・保護猫へのシェルター医療を行っていた際にはよく経験しました。
・猫ひっかき病
Bartonella henselae(以下、バルトネラ菌)という細菌による、人の感染症です。
バルトネラ菌を保有する猫に噛まれたり引掻かれた傷からバルトネラ菌が侵入し、発熱、頭痛、全身倦怠感、リンパ節の腫れなどの症状を引き起こします。
ある調査では猫の10%がバルトネラ菌を持っているといわれますが、猫には病原性がありません。
猫同士での感染はノミによる吸血や喧嘩で広がります。
ノミの存在は、特徴的な糞で気づくことも多いです。
赤黒いフケのように見えます。
マダニ、ノミの対策

愛犬、愛猫だけでなく我々人間の健康を守るためにはどのような方法があるのでしょうか。
茂みや野山には近づかないことが対策として挙げられますが、普段のお散歩でもマダニやノミの被害にあうこともあれば、飼い主様のライフスタイルも様々。。。
そして犬猫は衣類での対策も難しいです。
ではどのように対策するのか、ご説明します。
● マダニ、ノミの対策
一番有効な方法は、駆虫薬の定期的な投与です。
2-3月から12月までの期間投薬することを推奨します。
月に1回投薬するだけでOKです。
犬はおやつタイプ、猫は垂らすタイプがよく使われます。
おやつタイプを食べない、体重が軽くておやつタイプが使えない、食事アレルギーがある、といった場合には犬でも垂らすタイプもご案内しております。
フィラリアやお腹の寄生虫も一緒に予防できるお薬もあるので、1回の投薬で必要な寄生虫対策がすべてできます!
葉山地域ではマダニ、ノミ以外にも様々な外部寄生虫が潜んでいます。
特にタヌキはカイセンヒゼンダニを持っていることもあり、野生動物からの寄生を心配される方も多いです。
地域猫さんにも投薬することで、愛犬、愛猫への寄生のリスクも減らせます。
気になる方はいつでもご相談ください。